heidi

Wrong Made Right

1人のデザイナーによる、遊び心あふれる発想、
素材を自在に操る技術、そして幾何学へのこだわり――
そのすべてが形になった作品です。

デザイナー

デザイナー
Sebastian Wrong /
セバスチャン・ロング

heidi

セバスチャン・ロングは、類まれなバランス感覚を持つデザイナーです。
芸術教育と彫刻のバックグラウンドにより、形に対する独自の視点を培い、多様なキャリアを通じて培われたデザイン製造の知識は、彼の創造性と技術力をしっかりと支えています。

彼は、ロンドンのカンバーウェル・スクール・オブ・アートとノリッジ・スクール・オブ・アートで彫刻を専攻。その後、彫刻的な造形に機能性を加え、デザインオブジェの制作へと活動を広げました。
2001年にDrove Ltdを設立し、注目作《Spun》をはじめとする照明シリーズを発表。イタリアの照明ブランドFlosによって製品化され、現在でも高い人気を誇っています。
彼が関心を寄せるのは、「誠実で、技術に裏打ちされたものづくり」。その専門知識と技術力が評価され、2005年には設立メンバーの一人として《Established & Sons》を立ち上げ、現在も同ブランドの運営に深く関わっています。
ロングは現在も独立したデザイナーとして活動しつつ、《Established & Sons》のコレクションディレクターとして世界的なデザイナーたちと協働しています。

そんな彼の作品の中で、ロング自身が自身の美学を最もよく表していると語るのが、ミラノで発表されたスツールシリーズ《Heidi》。
「Heidiは目立ちたがりなデザインじゃない。とても控えめなんだ。でも実は構造はかなり複雑なんだよ」と語ります。
《Heidi》の魅力は、異なる素材と異なる構造方法の組み合わせにあります。レジン(樹脂)製のトラクターシートと、オーク材の脚部という異素材の対比が、緊張感と調和を生み出しています。
「レジンの遊び心を活かしたんだ。これはとても正直な素材で、型に流し込んで研磨しただけ。ごまかしがないんだ」とロング。彼はこのレジンの光沢を「ミッキーマウスの鼻みたい」とも表現します。
液体のような質感をもつレジンのシートに、構造的で地に足のついた木製の脚を組み合わせたことで、「快適さの象徴」としてのトラクターシートに、しっかりとした安定感が加わり、ロングらしい誠実かつユーモアのあるデザインが完成しています。



heidi2

一見シンプルに見えるデザインには、質の高いデザインを求める人やその知識を持つ人を魅了する、繊細で控えめなディテールが詰まっています。

セバスチャン・ロングの作品には共通して、ユーモアや機知によって人を惹きつける第一印象の裏に、洗練された複雑な製造工程が巧みに隠されているという特徴があります。たとえば《Heidi》では、脚部に三角形のテーパーを取り入れ、CNC(コンピュータ数値制御)加工によって、正確な角度の複雑な接合を実現しています。
彼の他の近作、たとえば《Convex Mirror(凸面鏡)》、《Font Clock(フォントクロック)》、《Wrong Woods(ロング・ウッズ)》といったキャビネットシリーズも、象徴的または形式的な形状に対するウィットに富んだひねりが加えられています。

《Heidi》についてロングはこう語ります。
「ちょっといたずらっぽくて、ちょっと遊び心があって、素材にフォーカスした作品。まさに僕の美学そのもの。ここでは2つの要素をデザインに取り入れているんだ。ひとつは、曲線的な快適さと仕上げ。もうひとつは、硬くてフォーマルな素材の使い方。」
また彼は、自身のインスピレーションとして、モダニズムや「送電塔のような構成主義的な幾何学」も挙げています。

どんな要素が組み合わさっていても、ロングの一貫した姿勢と製造技術への卓越した理解は、多くのファンを惹きつけてやみません。《Established & Sons》に関わる活動だけでなく、それを超えて広く評価を受けているのです。現在も複数のメーカーとのプロジェクトが進行しており、老舗ガラスブランド《Venini(ヴェニーニ)》とは、伝統的なガラス製造技術を用いた新たな試みに取り組んでいます。
「この経験を通じて、照明製品におけるセラミックやガラスの可能性が広がったよ。今は創作の幅を広げながら、本当に楽しんでるんだ」と、ロングは語っています。


写真:ピーター・グエンツェル撮影