マウロチェアは、豊かな個性を持つスタッキング可能な木製チェアで、非常にユニークな背景を持っています。1970年代にイタリアのデザイナー、マウロ・パスクイネッリによって創作されましたが、Established & Sonsによって再発見され、その魅力的なレトロな美学と未来的な志向が、21世紀の彫刻的なデザインへと生まれ変わりました。
同ブランドのデザインディレクター、セバスチャン・ロングによれば、この椅子が当初量産されなかった理由は、その複雑な形状と曲線にあります。「当時の技術では、このような洗練された椅子を競争力のある価格で大量生産することは不可能でした。現在では、CNCルーターシステムを使って、無垢材に複雑な曲線や断面、接合部、調整が施せますが、かつてはこれらを職人の手によってのみ実現していたのです。」

マウロ・パスキネッリは、わずか10歳で初めての椅子を作りました。現在87歳となった彼は、フィレンツェ郊外のスカンディッチで今もなお現役として活動しています。キャリアを通じて50脚以上の椅子をデザインし、イタリアデザイン界の主要企業とも数多く仕事をしてきました。
「マウロチェア」は、一生使えることを前提に設計された、実用的かつ多用途な木製ダイニングチェアです。そのプロトタイプは1970年代に生み出されたものの、フォルムの技術的な難しさから量産が困難とされ、実現には至りませんでした。
しかし、Established & Sonsのデザインディレクターであるセバスチャン・ロングが工場見学中にこの椅子を偶然発見したことにより、CNC技術によってついに製品化が実現。さらにこのことが、20世紀の巨匠たちと並び称されるべきデザイナーとして、パスクイネッリの国際的な再評価へとつながりました。
パスキネッリは自身の自宅に私たちを迎え入れ、意外性に満ちたこれまでの人生を語り、若いデザイナーたちへ向けた時代を超えるアドバイスを送り、そしてなぜ椅子こそが最も設計の難しい家具であるかを語ってくれました。