Bertjan Pot

「糸を巻き、素材を曲げて、鼻や耳を、
かつて何だったのか忘れてしまうようなものにする方法を見つけることが、私の喜びです。」
— ベルジャン・ポット

デザイナー

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Bertjan Pot /ベルジャン・ポット

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ベルジャン・ポットの作品には、実験的で遊び心に満ちたデザインアプローチが表れています。形、素材、色を自在に操りながら、彼は独自の世界観を創り出しています。

オランダ出身(1975年生まれ)のベルジャン・ポットは、シュールで鮮やか、そして異世界的な作品を手がけるクリエイターです。彼の多面的な創作活動は、ロープマスク、照明、手袋、バスケット、ラグなど多岐にわたり、いずれも素材への好奇心と実験的な技法が際立っています。これらの作品の多くは、素材研究から生まれたものです。

1998年にアイントホーフェン・デザインアカデミーを卒業後、ポットはロッテルダムに自身のスタジオを開設。元体育館だった空間は、運河に面し、木々に囲まれ、彼の素材探求を象徴する照明、織物マスク、テキスタイル、家具などで満ちています。

なかでも彼の代表作である「ロープマスク」は、構造やパターン、色彩への強い関心を映し出すもの。ジグザグ縫いとロープの巻き付けによって生まれるマスクは、どこか意表を突く顔のような造形をしています。ベルトヤン本人いわく、これらの顔は「ラグを作ろうとして失敗したところから生まれた」ものなのだそうです。




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Q:ベルトヤン、あなたの作品はアートとデザインの境界を曖昧にしていますが、その交差点をどう捉えていますか?
ベルジャン:「ラベルを貼ること自体が、かえって自分の表現を制限してしまうんです。私は“クリエイター”で、ただ“ものをつくるのが好き”というだけ。商業的なプロジェクトのときは“デザイナー”として動くこともありますが、デザイナーの友人たちは私を“アーティスト”だと思っていて、アーティストの友人たちは私を“デザイナー”だと思っています。」

Q:Wrong Shop に参加している多くの作家も同じような姿勢を持っていますね。あなたがそうして制作する原動力は何ですか?
「私がインスピレーションを感じるのは、“無限に広がる可能性”の中にあり、常に“どこまでできるか”という境界を押し広げようとしています。面白い素材や技法に出会って“これなら何かできそうだ”と感じたとき、創造力に火がつきます。その素材に新しい価値を与えることが目標で、それにはかなりの努力と献身が必要になることも多いです。
でも、時には“無限に、そして簡単に扱える可能性”を素材の中に見つけて、そこからとても機能的なプロダクトが生まれることもあります。そんなとき、私は“デザイナーモード”に入ります。その結果がアートと見なされるユニークな一点ものになることもあれば、広く展開できる製品になることもあります。
多くの場合、私の作品はアートとデザインの間のどこかに位置します。そのとき取り組んでいるプロジェクトの内容によって変わるんです。」

Q:スタジオはロッテルダムの元体育館にあるそうですね。普段はどんな1日を過ごしていますか?
ベルジャン:その質問って実はちょっと苦手なんですよ(笑)。でも、自分も人に同じことを聞くんですけどね。だから、「理想的な1日」について話してもいいですか?
朝起きてシャワーを浴びて、毎朝1時間くらい散歩するようにしています。家はスタジオのちょうど通りの向かいにあるんですが、それって便利な反面、自分の世界がすごく小さくなりがちなんです。だから数年前から「毎日歩く」って決めたんです。外の景色をちゃんと見るために。
9時にはスタジオにいて、そこから何かを作り始めます。昨日やり残したことか、新しくやりたいことか。できれば、それに1日中没頭できたら最高です。もちろん電話やミーティング、メールなどの用事もありますが、理想としては“手を動かして、何かを作って、新しい素材で試してみる”――そんなふうに一日が流れるのが一番好きです。

Q:あなたの作品は、素材の革新的な使い方が印象的です。新しい素材や技法に取り組むときの、創作プロセスについて教えてください。
ベルジャン:僕は「手を動かすこと」と「創造的に考えること」がバランスよく合わさった仕事に惹かれます。たとえばマスクを作るとき、最初は完成形のざっくりとしたイメージはあります。でも実際に作り始めると、途中で“あれ?こうなると思ってなかったな”っていう展開になるんです。そうしたら即興で考え直して、新しい方向に舵を切る。 そういう“予測できなさ”や“途中での判断の変化”こそが、僕にとってはものづくりの面白さなんです。

Q:「Ropemasks」シリーズを通して、観る人に何を感じ取ってほしいですか?
ベルジャン:マスクを購入した人が「どのマスクを選んだか」、そして「それがその人のキャラクターにどうマッチしているか」を見るのが楽しいですね。その人が自分自身の何かをマスクの中に見つけたと感じてくれると、とても嬉しいです。それってよくある話かもしれないけど、マスクが人によって違う意味を持つこと、そして誰かが「これ、まさに自分だ!」と思える瞬間が好きなんです。
でも僕にとって、マスクを作る喜びはキャラクターを創造すること自体よりも、「この素材が元は何だったのかを忘れさせるような形に変化させること」にあります。糸をぐるぐる巻いて、鼻や目、あるいは“鼻や目のような何か”をどう作るか。そこに面白さを感じるんです。だから、観る人がどう解釈してくれても構わない。自由に想像してもらえるのが楽しいし、自分で物語を作ってくれる人がいると最高ですね。

Q:「Ropemasks」シリーズを始めたきっかけは何でしたか?
ベルジャン:たくさんのロープが手元にあって、それでカーペットを作ろうと思ってたんです。でも何時間も縫い続けて、できあがったのは歪んでいてすごく小さい。これじゃカーペットにはならないなと落ち込んでいたとき、アシスタントが「何作ってるの?」って聞いてきて、「それ、マスクにすれば?」って言ったんです。そこから鼻を作って、次に耳を作って……半日後には最初のマスクが完成しました。それが『Ropemask No.1』ポスターに使われているものです。完成品を見たアシスタントも「こんなふうになるとは思ってなかった」と驚いてました。
実は僕、ずっとマスクに興味があったのに、自分で作ったことがなかったのは不思議なくらいでした。でも、マスクって作るのが意外と簡単なんですよ。人間って、顔を見分ける能力がすごく高いから、ドアの模様や水道の蛇口の形ですら顔に見えてしまう。だから、点が2つと線が1本あるだけで“顔”として認識されるんです。
それが理由で、マスクはたくさん作りました。この13年間で350個も作ってきました!

Q:あなたの技法は遊び心がありながらも考えさせられるものです。マスクを作るプロセスについて、もう少し詳しく教えてください。
ベルジャン:僕の技法は、ロープをジグザグ縫いして一体化させていくものです。一見、編み物や織物に近いように思えるかもしれませんが、実際には「巻き上げる(コイリング)」という方法に近いですね。この方法には独特の難しさがあって、2009年からずっと続けています。初期の作品 ― たとえば『Ropemask No.1』のような ― を今の作品と比べると、その違いは明らかです。初期のものは制作に時間がかかっていて、不規則な部分が多い。でも、そうした不完全さも今では気に入っていて、なぜなら当時はまだ自分の手法を完全にコントロールできていなかったから。
それもあって、最近はあまりマスクを頻繁には作っていないんです。この技術にはかなり熟達してしまったから、もっと違うことに挑戦したくなるんですよね。そこから新しいマスクシリーズが生まれることもよくあります。ロープの縫い方を変えたり、新しい道具や色、種類のロープを使ったりすると、自然と新しい課題が出てきます。それがまた面白いんです。

Q:新作の『Ropemask』ポスターで使用されているユニークな鏡の背景について教えてください。
ベルジャン:これはセバスチャン・ロングのアイデアなんです。以前からロープマスクの写真を販売してほしいという話はあったんですが、僕の作品は素材そのものが重要なので、ただの「イメージ」で終わらせたくなかったんです。セバスチャンとは、2015年の「Wrong for HAY」からずっと一緒に仕事をしてきた仲です。
今回、彼が「鏡を使おう」と提案してくれたんです。それはすごく革新的なアイデアでした。ポスターの前に立つと、自分の体の一部が鏡に映り込んで、まるで自分がマスクをかぶっているかのような感覚になるんです。そして、鏡がマスクを宙に浮かせたように見せたり、逆に周囲の空間と一体化させたりする。そうした“浮遊感”と“空間との融合”という相反する効果が共存していて、それがとてもマジカルなんです。